イキイキ情報紙「あしすと」は毎月第3木曜日高知新聞夕刊に掲載されています。

あしすと
5月
Vol.155

身近なコケを、もっと身近に


ひそやかな緑

いつもは目立たないコケたちが、
しっとり、生き生きとしてくる季節。
高知はコケの楽園、エコでマイペースな
暮らしぶりを、そっと観察してみましょう。
コケに恵まれた高知県
 雨の後は、コケが元気です。石や樹木など、何かに寄り添ってモコモコと固まっていたり、平たく覆っていたり。小さいけれど美しい姿をしています。でも、地味で目立たないコケについては、知らないことだらけです。
 そこで、コケの専門家である高知大学の松井透先生にお願いし、身近なコケのお話を聞き、実際に観察するフィールドワークへ出掛けました。温暖で雨の多い高知県は、理想的なコケ天国だそうで、標高によってもさまざまな種類が見られます。
いわゆる「コケの花」は何億もの胞子が入った袋をもつ「胞子体」

ほかから奪わない生き方
 よく誤解されるのが、コケは暗くじめじめとした場所を好み、樹木に害をなすということ。実際には太陽の光で光合成をしており、小さな体全体を使って、水や微量の土から養分を取り込みます。菌類と違って寄生はしません。仮根(かこん)という、何かにくっつく足掛かりを伸ばすだけで、養分を体内へ送る根や、維管束という管状の組織を持たない、原始的な植物です。胞子を飛ばして子孫を増やします。コケの仲間は「蘚類(せんるい)、苔類(たいるい)、ツノゴケ類」の3グループが知られ、今回ご紹介するのは蘚類です。
縁の下の力持ち
コケの上に植物の種が落ちて、芽を出しています。保湿機能のあるコケは植物を育て、保水力のある森の源に
 コケの仲間は世界に約2万種。ほかの植物より圧倒的に多く、四国でも500~600種類が生育しています。そもそも、地球の陸上植物にとって、コケは進化の原点。先祖であるシャジクモなどが最初に陸へ上がってコケになったと考えられています。コケがベースになって新しい植物の森ができ、いろんな動物が陸を目指し、やがて人類も誕生しました。「3億5千万年もの間、あまり変わらぬ姿で逆境にも適応してきた、したたかな連中です」。松井さんの話が熱を帯びます。
ルーペでのぞく、新世界
 しかし、コケは小さく、湿度や環境によって姿も変えやすい植物。種類を調べるには顕微鏡レベルの専門的な作業が必要です。そこで、気軽にコケを観察して楽しむには、ルーペを持つこと。小さな生き物の観察にも便利な10倍ぐらいがお薦めです。ルーペを目に近づけて動かさず、対象物を引き寄せる、あるいは体ごと動かしてピントを合わせるのがコツ。のぞいて見ると、新しい視野が開けて、コケの群落が豊かな密林にも見えてくるし、世界を見る視点も変わりそうです。
倍率10倍ぐらいが手頃なルーペ。眼鏡店や大きい文房具店、インターネット通販などで扱っています
上/木の幹に付いているミノゴケ。
下/拡大して見ると、立体感たっぷり。写真協力/松井透
松井 透 さん Tohru Matsui
高知大学理学部准教授、専門は蘚苔類。これまでに命名した新種のコケは4種。「新種の発見より、従来は違うと思われていたコケが同種と分かるのがロマン」。兵庫県出身。

コケ探しお出掛け 工石山
フィールドノート


コケを探す人にとって、足元は宝の山。
ルーペを手に、代表的なコケの仲間が見分けられれば、
ひそやかなコケたちが、親しい友になるはず。


◎案内人 松井 透さん
コケの群落。腐り始めた倒木は、スポンジ状になった組織が水分を蓄えて、コケがすみやすい環境です
コケは、仲間で覚えるべし
少し抜いて観察したら、同じところへ戻しましょう
 300種類以上のコケが生育している、標高約1176メートルの工石山へ登りました。駐車場から山頂まで歩いて40分ほどの道のりで、標高が上がるにつれて、コケの種類や生え方も変化していきます。「高知市街から車で30分足らずで、標高千㍍級の山があるなんて、すごく恵まれた環境ですよ」と松井さん。
 種類をその場で見分けるのは専門家でも難しいので、「○○ゴケの仲間」という感じで覚えれば、分かりやすいそうです。雨にぬれた状態と乾いた状態でも、姿が変わるコケ。シダの仲間とも間違えやすいのですが、小型の図鑑を持って行くと、参考になります。
木の幹ではコケや地衣類などが、より良い条件の場所を
得ようと、あの手この手。静かな戦いが、ゆっくりと繰り広
げられています
◎松井さんお薦め、コケ観察フィールド
梼原町森林セラピーロード(久保谷ロード)
フワフワしたコケもあり、歩きやすい道。
問い合わせ/
TEL0889-65-1100(雲の上のホテル)
工石山(工石山陣ケ森県立自然公園)
高知市から近く、コケの種類が多い。県立工石山青少年の家(駐車場)から山頂まで歩く、片道約40分のコース。
問い合わせ/県立工石山青少年の家
TEL088-895-2016(月曜休み)
梶ケ森(梶ケ森県立自然公園)
標高約1,400メートル、コケの種類が多く、雄大な山岳の自然を満喫できるコース。山頂まで道路も整備。
問い合わせ/山荘梶ケ森
TEL0887-74-0256
◎「第71期 高知市民の大学」での講義
【蘚苔類の世界をかいま見る】
会場/高知市文化プラザ かるぽーと11F
日時/5月22日 18:30~20:00
料金/500円(1回だけの受講は当日受け付け)
申し込み/(財)高知市文化振興事業団
TEL088-883-5071(かるぽーと8F)
コケのなかでも大型のオオカサゴケ
地面から立ち上がるタイプのコケ。山の斜面などでよく見られます。長い胞子体の先にできる、丸い胞子のうが特徴。
タマゴケに似ています。標高の高いところにも生え、風通しや日当たりのよい場所を好み、群落を作ります。
通称が「イタチのシッポ」。ぬれると動物の尾のように、ふさふさと広がって目立ちます。
この仲間のコスギゴケは高校理科の教科書「生物」に登場する代表的なコケ。葉は乾くと丸くなり、ぬれると開きます。
世界中に分布する、ポピュラーなギンゴケ。都市部にも多く見られます。名前は乾いたときに銀色がかるため。
シノブゴケの仲間ハイゴケの仲間地面をはうから、ハイゴケ。木の切り株や日当たりを好みます。葉がカールしているのが特徴。似た種類のツヤゴケはカールなし。見分けの難しいタイプ。
くすんで灰色がかった緑色。スギの林でよく見られます。ホソバオキナゴケは苔庭のコントラストに使う定番素材。
茎が長く枝分かれして、湿っている状態ではシダに似た美しさ。日本には16種の仲間が生息。
これはコツボゴケ。ルーペで見ると、全体が透き通って面白いのですが、葉の細胞が一層しかないためです。
ヒメシャクナゲの鉢植えに、ハイゴケを載せて

苔玉を
育ててみよう

コケとの付き合いは、じゃじゃ馬ならし
 園芸の楽しみを広げてくれる苔玉。海地さんがコケで土を包んだボールに植物を植えてみたのは10年以上前だそうです。それまで育てるのが難しかった高山系の植物も、この土台には簡単に付き、しかも手軽になりました。
 コケは日当たり、風通し、そして空気のいいところを好みます。ハイゴケは、苔玉に仕立てやすいコケの仲間。通気性がよく、高知の暑い夏にも蒸れません。あとは水やり。ご飯を食べるときは、苔玉のことも思い出して。
 「いつも見てあげないと、コケも花も、むくれて枯れます。コケはじゃじゃ馬。手なずけたり、品種改良や園芸化もできません。山へ行くと、『おまん、こんなところにおったかよ!』という出合いがあります。強い半面デリケートなところに引かれますね」
バイカオウレンの苔玉
イロハモミジとコケ。林をイメージして。「山を先生に、自然のイメージで作ります」。胞子が飛んできた「飛び込み」のコケも交じって、元気
1
置き場所
室内に置きっぱなしは、せいぜい3日間まで。昼と夜が逆転し、湿度も光も弱過ぎます。集合住宅ならベランダへ出してあげてください。夏は北側、冬は南側に移動するなど、環境を考えて。
2
水やり
夏場は夕方にたっぷりの水やりがベスト。水が好きな植物なら毎日、少なくても2日に1度は水浴をさせましょう。5秒だけドボンと漬けて、引き上げます。長過ぎると葉焼けするので気をつけて。水が玉の内部へキュッと入り、上げる時には新鮮な空気が入ります。
3
肥料
ほかの植物を入れるなら肥料は必要ですが、コケだけなら要りません。油かすは強過ぎてコケが枯れてしまいます。液体肥料を1千倍に薄めて少量入れれば、植物にもコケにも優しい養分に。
4
コケを増やす
はさみで細かく刻んだコケをパラパラと表面にトッピング。環境になじんですぐに増え始めます。早く一人前になろうとする力が働くのだそう。コケは手の脂が苦手なので、ピンセットなどで。
海地 勲 さん Isao Umiji
草工房主宰、高知市在住。

◎海地さんの苔玉園芸教室
会場/城西館1Fロビー
日時/毎週金曜日20:00~21:30(所要約30分)
料金/実費で1,500円
申し込み/城西館 TEL088-875-0111
撮影場所/高知県立牧野植物園
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