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中村。非日常の一夜 キャバレー跡でSWANがイベント

5月23日夜。四万十市中村でライブイベントが開かれた。この地を拠点に活動し、日本有数の野外フェス「フジロックフェスティバル」への出場も果たしている3ピースバンド、SWANと、その仲間たちの主催で。会場は…いつものライブハウスではなかった。街中の空き店舗。手作りのステージとフロア、客席だった。

一夜だけの非日常的空間は、「関西からの個性的なゲスト2組が来高」という要素も相まって百数十人が集まり、「祭りの夜」のように盛り上がっていた。

飲食店やスナックが並ぶ中村大橋通3丁目。ある店舗の1階入り口に張られたポスターが、小雨にぬれていた。「SWANのMIZUUMI NIGHT! VOL.8」。

ドアを開ける。昭和の時代はビッグバンドによるジャズの生演奏が行われていたというキャバレー跡。がらんどうではなく、わずかの段差が付けられたステージ、その前に広がるスタンディングフロア、ソファとテーブルが備え付けられたボックス席が残っていた。

一度、ここでライブをやってみたい…SWANの大谷泰吾(37)は決めていた。

大谷たちは9年間、中村愛宕町のライブハウス「シルバー」で毎月最終日曜日、ライブイベントを開いてきた。その一方で、街中の空き店舗で開かれているDJイベントにも顔を出してきた。「ライブも街中で」「シルバーは座って見るようになっている。スタンディングでやりたい」

今年2月ごろ、旧知の「関西ゼロ世代」を代表するバンド、オシリペンペンズから連絡を受けた。「ツアーに行きたいんやけど」。チャンスだ。そのライブをこのキャバレー跡でやってみよう−。家主や電力会社と交渉。スピーカーやPA卓などの機材を借り、2日前から十数人で掃除と会場設営を進めた。

午後6時半すぎ、ライブが始まった。会場の入り口近く。ステージ、フロア、ボックス席を見渡せる場所で、大谷はたたずんでいた。いろいろな不安を抱えながら。

「大音量に苦情がくるかも」
「お客さんも集まるやろうか?」
「自分の演奏も集中とか無理やな」

やがてすべてが、杞憂(きゆう)に終わる。

         ■□■

2番手で登場したSWAN。集中することをあきらめかけていた大谷だったが、「ステージに上がると、不思議と集中できて」自分たちのサウンドに没入していく。

スローだがシャウトによる熱さが伝わってくる「最後のこと」、荒々しいロック「退屈」…SWANの曲の中でもおなじみのナンバーをその場で選んで演奏していく。圧巻は即興に近い新曲。大谷の合図で、矢野秀樹(36)のドラム、千代岡司幸(36)のベースがループを繰り返したり、ブレイクを刻む。そのリズムの上に、大谷の歌とギターが乗っていく。

分かりやすさとは程遠いロック。続く3番手のオシリペンペンズも、変速ドラムと津軽三味線のじょんがら節のような早弾きギター。関西ゼロ世代らしいアバンギャルドなサウンドが持ち味だ。

が、中村のオーディエンスたちはそうした音楽を素直に楽しんでいた。年配の人々も若者も、体を揺らし、歓声を上げていた。次第にオーディエンスも増え、ボックス席から立って楽しむ人でステージ前のフロアも埋まっていく。

ラスト4番手はオシリペンペンズと同じく関西ゼロ世代バンドの、あふりらんぽ。トライバルなドラムと爆音ギターの女性2人組だ。フロアのオーディエンスは40人ほどにふくれあがり、叫び、ハンズアップを繰り返す。本編ラストは、優しい歌が次第にギターとドラムのバトルになっていく「星の唄」。激しいリズムに会場は、この日最高の熱気に包まれた。

あふりらんぽはライブ後、こう語ったという。「雰囲気が異次元。あんなテンションの人たち、(地元の)大阪にもおらんわ」

         ■□■

騒音苦情もなかった。この夜を振り返って、大谷はいう。「あふりらんぽのステージで、かなり盛り上がってきてて。ホッとした感じもあったし。終わるがや、というさみしさも…でも一番は…こっちが思うた以上に、お客さんが楽しんでくれたのがうれしかった」

浮かんでくる、顔、顔、顔。初めて会った人々。仲間。家族。そんな彼、彼女たちの笑顔が。普段のライブでは座っている女性たちがフロアで踊っている姿も忘れられない。

大谷たちは中村で、幡多で、さまざまなイベントを続けてきた。最終日曜日のライブイベントだけでなく、野外フェスなども。常に念頭に置いてきたのは…ロックを聴かない人、カラオケで歌うポップスしか聴かない人、そういう地方に生きる多くの人も巻き込むには「祭り」の感じ=非日常が必要だ、ということだった。

その集大成のような一夜。

「これを年に2、3回やれれば」と大谷。

また中村に、「祭りの夜」がやってくる。

全力の3曲、十数分 〜山本ソング

十数分というわずかな時間でも、ロックにはできることがある。幡多のバンド、山本ソングは、四万十市中村でのライブイベント「SWANのMIZUUMI NIGHT! VOL.8」でそのことを証明した。

山本恭平を中心に、同じ高校でバンドをしていた山崎諒、繁山智大らで2005年に結成。その後、上田真二の加入で現体制に。メンバー全員が今年で25歳、THE BACK HORN好きという4人組だ。

トップバッターの彼らは、関西ゼロ世代2バンドとSWANの前というプレッシャーでガチガチだった。それを、「この日が自主制作CD『アカシ』のリリースライブ。下手なことはできない」という気合で乗り越える。

ロカビリーテイストの激しいロックを連打する。激しさを担うのは山崎のギターだ。山本のグルービーなベースと、シャッフル感を出す上田のドラムでぐいぐいと引っ張り、そして—。繁山の、ねっとりとまとわりつく歌とステージでの暴れっぷりで、オーディエンスの心を一気にわしづかみにした。

全力の3曲、十数分。山本は言う。「ジェットコースターみたいで。上りゆう時…楽屋にいる時は怖い、けど、一回下りだしたら…演奏し始めたら面白い。そんな感じでした。4人とも力が入って、それがうまくかみ合って」

彼らがトップバッターでなければ…2番手、SWANの、大谷泰吾(37)の集中もなかったかもしれない。「山本ソングも良かったけど…それがどうした!」。大谷の心に、そんな火を付けたのだから。

 

 今夏の踊れる3枚

65デイズ・オブ・スタティック「ウィ・ワー・エクスプローディング・エニウェイ」

65デイズ・オブ・スタティック「ウィ・ワー・エクスプローディング・エニウェイ」=写真
UKインストバンドの4thアルバム。お薦めは3曲目「ダンス・ダンス・ダンス」。骨太なドラム、叙情的なエレクトロサウンド、終盤からほとばしるギターノイズに、ノックアウト間違いなし。(編集部、爪9センチ)

Q;indivi+「ACACIA;」
和製ハウスユニットの新作。タイトルチューンがすごすぎ。ディスコパンク+ピアノ&エレクトロサウンドを、エモーショナルにまとめ上げるチバユウスケの歌。凶悪! これはボーカルハウスを超えた、「男性ロックボーカルハウス」とでもいうべき新ジャンルの曲である。(編集部、OK電算機)

BRAHMAN、EGO−WRAPPIN'「SURE SHOT」
ハードなパンクバンド。ジャズや歌謡曲をルーツとするバンド。しかもそれぞれが孤高の存在といえる2組の異種格闘技戦! 互いの世界観をぶつけ合ったこのコラボから生まれたのは…メロウなメロディとシャープなギターリフが疾走するアッパーチューン。(編集部、猿惑星博士)

 編・集・後・記

UKインディーロックの名曲「ラヴ・ウィル・テア・アス・アパート」。愛は私たちを分かつ…このニヒルなタイトルをもじってみる。「ミュージック・ウィル・テア・アス・アパート」と。

音楽は一体感もくれる一方で、近年、人々をバラバラにするようになった。ジャンルの細分化である。好みの多様化と相まって、ライブではオーディエンスの分散化が急激に進んだ。「○○はいいけど××は…」と。さらに、ライブとDJパーティーの間の壁は厳然とある。

SWANの大谷泰吾もコアなロックリスナーであり、実に独特なロックの表現者である。が、彼は、ことイベントをやるとなると自らの志向をポップに切り替える。一般の人を巻き込むための非日常も演出し、ライブに行く人もクラバーも楽しめるように、バンド演奏の合間はDJに任せた。

分かたれた私たちが、いま一度、つながれるように…大谷は大きなヒントを与えてくれている。 (OK電算機)


(2010/07/02)



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